邪神官 若き日の悩み

 人は迷うもの。

 それは神に仕える聖職者も同じことです。今日も、若き聖職者の悩みが聞こえてきます。

 ああ、神よ。罪深き私の声を聞いてください。

 わたしは教会で奉仕をし、傷ついた冒険者を癒し、あるいは、不幸にして命尽きた冒険者の復活に携わっておりました。もちろん、教会の教えに基づき、決められた寄付を受けたうえ、です。

 ですが、以前からわたしには抑えがたき疑問がございました。

「どうして、大いなる神の愛による奇跡をおこなうのに、決められた額の寄付を受けなければならないのでしょうか」

 あるときには、教会に助けを求めて辿り着いた冒険者に対して、「寄付の額が足りぬから、仲間の復活はかなわない」と告げました。また、病気で倒れた母親を教会に連れてきた幼子が差し出したわずかな寄付に対して、「寄付の額が足りぬから母親の治療はできない」との返答さえ行いました。

 なぜでしょう。

 人々の安全のために戦い倒れた冒険者に、神の奇跡は訪れないのでしょうか。

 幼き子供が差し出した、彼らにとって精一杯の寄付は、神の愛を受けるには不十分なのでしょうか。

 同じく奉仕に努める神職は言います。

「疑いを抱くな。教会の教えに従えばいいのだ」

 教会の長は言います。

「神の教えに人間が疑問を感じることこと自体が傲慢であり不遜である」

 わかりません。神の愛はすべてのものに平等に与えられるものではないのでしょうか。

 悩むことがやめられない、罪深きわたしに長はこうも言いました。

「このように考えたらどうだ。神の奇跡を行うにも地上の力が必要になる。さらに、復活の奇跡を行う場合には対象となるもののレベル、癒しを行う場合には傷の度合いにより、必要となる地上の力が異なるのだ。一方で、金は人々の間をめぐってきた地上の力そのもの。よって、高いレベルのものを復活させたり重篤な傷を癒す場合には、相応の寄付が必要となるのだ、と」

 これまでわたしを教え導いてきてくれた長の言葉です。わたしも、一度はうなづき、その後は疑問は胸の底に沈め奉仕に当たっておりました。

 しかし、今日、教会に死した農夫が運び込まれました。雨の中農作業をしていて雷に打たれたとのことで、遺体はひどく損傷しておりました。貧しい農家で、十分な寄付どころか、わずかな寄付さえもできません。ですが、泣きながら「なにとぞ、なにとぞ、神の奇跡をこの人に」、「お父ちゃんを生き返らせください神父様!」と涙ながらにすがる妻や幼子たちに、「寄付が十分でないから復活の儀式はできない」と答えることは、わたしにはできませんでした。

 でも、半ば考えてもいたのです。「十分な寄付がないのだから、地上の力が足りず、奇跡はなされない」と。

 でも、ああ、何ということでしょう。

 寄付を受けずに行った復活の儀式によって、農夫は見事に息を吹き返したではありませんか! 

「奇跡を行うには、相応の地上の力、つまり、金が必要」との、長の言葉は何だったのでしょうか。

 その後、わたしは教会の教えに背いたとして、長から厳しい叱責を受け破門となりました。

 わたしは、農夫に復活の儀式を行ったことを少しも悔やんではいません。

 でも、わからないのです。

 わたしは、間違っていたのでしょうか。神の奇跡は、神の愛は何処にあるのでしょうか。

 ああ、神よ、わたしの神よ!!

 彼は、相当悩んでいるようですね。

 では、少し失礼して、彼に道を示してくるとしましょう。

「悩むことはありません。あなたは間違っていないのです」

 ああ、神の言葉がわたしに・・・・!

「私はかつてこの地上を愛にあふれた場所として形作りました。しかし、人々はやがて愛を忘れ私利私欲に走るようになり、神の愛でさえも、金儲けの手段としています。そればかりでなく、古くからこの地を見守ってきた神であるこの私を封印し、自分たちの都合のいい異教の神を崇め奉っているのです」

 そうなのですか、何という罪深い恐ろしいことを・・・。

「あなたの農夫を思う気持ちはとても強く、封印された私のもとにさえ届きました。彼を生き返らせたのは私です」

 ありがとうございます。ありがとうございます!

 

「あなたの純粋な心は何にも替え難い。どうか、私のために、いや、人々に再び愛を届けるために力を尽くしてはくれないでしょうか」

 わたしのような小さきものに、身に余るお言葉でございます! どのような艱難辛苦がありましても、わが神のためこの身全てを捧げてお仕えいたします!!

「ありがとう。とはいえ、私は今は異教の神々に封印されている身です。まずは、この封印を解いて私を蘇らせてください。また、この地は彼の神々により支配されております。彼らにとって、いわば私は邪神。厳しく困難な活動となりますが・・・・」

 なんの、あのような間違った教えを報じる奴らこそが邪神と邪神官です! ですが、彼らが貴方様を邪神と呼ぶのなら、わたしは誇りをもって自ら邪神官と名乗ります!!

「その言葉嬉しく思います。地上は異教の影響に満ちております。このままでは間違った教えにより人々が滅びに向ってしまいます。私が復活して、この地より異教徒を一掃し愛ある世界を再び作るため、再建のための破壊を行うことが必要なのです」

 ははっ! すべては御心のままに! 新しき世界を創りましょう!!

 また一人、迷える子羊が救われました。

 どうです、貴方もいかがですか。共に新しき世界を築きませんか。