冒険者の黄金像が国中に建てられた理由

 勇者よ。そしてパーティーの諸君。この度の魔物討伐の儀ご苦労であった。

 実は、お主たちの黄金像を各地に建立しようと思っておっての。いやいや、辞退などしてくれるな。実はこれには深い理由があるのだ。

 お主たちの活躍のおかげで、魔物たちの脅威は減り、国民は皆安堵しておる。皆、お主たちに感謝しているよ。いや、謙遜などするな、本当のことだ。

 魔物討伐で旅に出ることが多いそなたたちだが、久しぶりに都に帰って何か気が付いたことはないか。

 ほう、いつの間にか季節が変わっていた、うむ、そうだろう大変な長旅だったからな。ふむ、久しぶりに戻って都の名物料理を味わえてうれしかった、うむうむ、ふるさとの味は格別だな。なに、名物料理の値段が以前の数倍になっていてびっくりした、おう、それだよ、実はそれが大きな問題になっているのだ。

 知っての通り、この国の基軸通貨は金貨だ。しかしな、ここ最近金貨の価値が暴落してしまっているのだ。通貨の下落の影響で給金や貯金の価値が減り、民の中には食料を満足に買うこともできない者も出始めている。

 うむ、原因か? 実は言いにくいのだが、原因はそなたたちなのだ。

 いや、そなたたちが何か悪いことをしたというわけではないのだ。ただ、そなた達が魔物を討伐して持ち帰る金貨に問題があるのだ。

 まったく、魔物たちがどうやってため込んでいたのか見当もつかないが、そなた達が持ち帰る金貨の量は途方もない量になっている。お主たちも実感しているだろう、最初のころは、安い装備をそろえるのに四苦八苦していたのに、今ではその何十何百万倍の価格の装備を買いそろえ、なおかつ金貨が余っていることに。

 「魔物鉱山」とでもいうか、そこから持ち返られた金貨が、お主たちが武器等を購入した店や寄付を行った協会などを通じて国中に広がった結果、金貨の価値が大きく下がってしまってのう。うむ。ハイパーインフレというやつだ。

 金貨は希少である金から作られているから価値があるのだ。大量に金貨が出回るようになっては誰も金貨を欲しがらない。しかも、その流通量を調整しようにも、お主たちがいつどれだけの金貨を持ち帰るか予想ができないし、そもそも、お主たちが不当に手に入れたものではないしな。

 うむ、お主たちは悪くない。悪くないぞ。

 そこで、相談なのだ。

 大方、お主たちは、金で買えるものはすべて買いつくしたことと思う。今後、冒険から持ち帰る金貨は、こっそりと国に納めてはもらえんだろうか。

 その金貨をどうするかだと? 国の行う公共事業の費用に充てたりすることはできん。結局市場にそれだけの金が流れてしまっては一緒だからの。城にため込んでおいても、いずれ誰かが手を付けてしまう危険がある。

 魔物を討伐した後、金貨、財宝を放置してはどうかだと? いや、お主たちのように話のわかるものならともかく、うわさを聞き付けた無法者がそれを手にして、国中で浪費することになっては大混乱だ。

 そこで、最初に話した黄金像だ。うむ、金貨を鋳つぶして像を建てようと思う。お主たちの貢献に報いるといえば国中の民は納得するだろう。今度はその黄金像を狙う不届き者が現われないかだと? まだ、民は、お主たちの持ち帰る金貨がどれ程の量で、それが国中のハイパーインフレの原因となっているとは気づいておらん。だから、その像は銅像に金メッキという触れ込みにするのだ。実は本当に黄金像なのだがな。

 おお。わかってくれたか。すまぬ、感謝するぞ。おかげで金貨の流通量の調整をして、民をハイパーインフレの混乱から守ることができる。後は、像を建てた後の工員の始末だな・・・。いや、後はワシに任せてくれ。政事は国王たるワシの仕事だ。

 これからも魔物から民を守ってくれ、期待しているぞ。勇者、そして、パーティーの諸君!